任意整理における長期分割の可能性
任意整理とは?
任意整理は、債務整理の一種であり、弁護士が代理人としてカード会社や消費者金融などの債権者との間に入って交渉し、返済の条件を変更する手続きを言います。この際、ほとんどのケースでは、和解後の利息をゼロにすることができます。
なお、債務整理という呼び方をする方もおられますが、正式には、債務整理は、任意整理・民事再生・自己破産、などを合わせた総称で、そのうち、上記のような弁護士が代理人として交渉して債権者との合意をして、返済条件を変更する手続きを任意整理といいます。
また、グレーゾーン金利での取引があった場合には、利息計算法の適法利率で計算をし直します。これを引き直し計算といいます。これにより、債務が減額できたり、過払い金の返還請求をできる場合もあります。ただ、その可能性があるのは、2010年6月の法改正前から取引をしていた場合で、かつ、キャッシングの取引があった場合だけです。(大手カード会社の多くは2007年に新規契約の利率を下げているので、それらの業者の場合はそれより前からの取引の場合のみ当てはまる可能性があります)。
もっとも、適法利率による引き直し計算での減額や過払い金の発生が期待できない場合でも、和解後の利息をなくす、月々の支払額を交渉で決めることができる、点で、任意整理は家計の改善、生活の再建に有用な手続きといえます。また、実際に多くの方が任意整理で債務の問題を解決して生活を立て直しています。ただ、この手続きが望ましい場合と、他の方法のほうが良い場合があるので、その点について、解説していきます。
任意整理が望ましい場合とは?
まず、このままでは返済が行き詰ってしまう恐れが高い時や、現に行き詰ってしまっている場合は、基本的に、何らかの債務整理をする検討する必要があると考えられます。時効援用や過払い金返還請求で解決できるケースもありますが、多くの場合、残った債務をどのようにして返済するか、あるいは、裁判所の手続きで免除してもらうか、を検討しないといけません。
その際、任意整理を選択することが望ましいのは、どういう場合でしょうか?
まず、任意整理は、住宅ローンや車のローンを外して行うことで家や車を保持したままできるし、破産のような資産を換価する手続きではないので基本的に資産に影響は出ない、また、利用している銀行の借り入れだけは外すなど債権者を選択して行うこともできる、など、柔軟性がある手続きなので、返済が難しくなった場合は、まず、任意整理を検討する場合が多いです。破産や再生のように各種資料を裁判所に出す手間がかからないというのもメリットです。
一方、任意整理は利息をなくすとはいえ、返済していく手続きですので、返済のめどがあることが必要です。そこで、家計を見て、毎月どの程度返済できるか、を検討する必要があります。ここで、債務総額との関係も重要です。例えば、債務総額が100万円の場合に月々の返済が2万円まで可能な場合は、50回分割で和解できれば良いので、この場合は一般的に考えれば、任意整理ができる可能性が高いでしょう。なぜなら、60回分割までは応じてくれる業者が多いからです。
しかし、債務総額が300万円の場合に2万円の余力しかないのであれば、ほとんどの場合、任意整理は難しいです。なぜなら、この場合、150回分割で和解してもらう必要がありますが、ほとんどの債権者はそのような長期分割に応じてくれないからです。
したがって、基本的に、債務総額と月々の支払可能額により、任意整理ができるかどうか、は決まってくるといえます。ただ、賞与(ボーナス)がある場合は、賞与を併用する返済計画を立てることもできるので、その分余裕は出てくるでしょう。
なお、任意整理が難しい場合は、自己破産で免責を受けることを目指すか、民事再生で債務総額を大幅に減額してもらったうえで再生計画案に基づいて返済していくか、という選択肢がありえます。破産手続きだと持ち家は原則的に失ってしまうことになるので、任意整理が困難なほど債務が大きい場合において住宅を残したい場合には、民事再生を検討するとよいでしょう。
任意整理ができるかどうかの限界は?
一般に多くの債権者は5年分割に応じてくれるので、5年分割で支払えるのであれば、多くの場合、任意整理はできると考えられます。例えば、債務総額が300万円で支払い可能額が毎月5万円の場合、60回分割で和解してもらうことで任意整理ができる可能性が高いです。このように、5年か、それ未満の期間で支払う計画が家計の上で可能な場合は、任意整理ができる可能性が高いです。
また、事情により、6年、7年、場合により10年という長期分割に応じてもらえる場合もあるので、5年分割では支払い可能額に収まらないからと言って任意整理ができないとも限りません。実際、当事務所でも、5年を超える長期分割で和解できたケースは多々あります。
たしかに任意整理が難しい場合、民事再生や自己破産という選択肢もあるのですが、ローンがあり担保が付いている自動車を手元に残したい、住宅を残したいが民事再生は清算価値の問題で難しい、など、何らかの理由で、ぜひ任意整理で解決したいというケースもあるので、そのような場合には、5年分割での支払いが難しそうでも、任意整理で解決する道がないか、探ることに意味はあります。
ただ、一方で、債権者によっては5年分割でも難色を示す場合もあり、5年分割で払えるなら必ず任意整理ができるとは言い切れません。一部の消費者金融会社は依頼までの取引期間が短いなど状況により2年~4年程度の分割しか応じてくれない場合があります。また、月々の最低弁済額を定めているカード会社も多いので(例えば月最低5000円など)、債務額が少ない場合は、分割回数の上限は短くなりがちです。また、状況にかかわらず5年を超える分割回数には応じないというカード会社等もあります。
このように、債権者によっても方針は異なるところ、債務整理を検討中の方は数社、あるいは10社以上から借り入れたりカード利用をしているケースが多いので、どの債権者にいくら債務が残っているか、ということは長期分割での任意整理の成否を検討するうえで重要な要素になってきます。
長期の分割に応じてもらえる可能性
まず、5年を超える長期の分割に応じてもらえるかどうか、については、応じてくれることがある債権者もありますが、その場合でも、多くの場合は、債権者は
- 債務者の債務総額(当該債権者以外も含めた総額)
- 当該債権者に対する債務額
- 家計の状況(収入、および支出の項目等)
をみて、本当に長期の分割が不可欠なのかを検討しています。つまり、4年か5年で余裕で返済できるときに7年か8年の分割を提案しても応じてもらえる場合は少ないです。また、生活再建という債務整理の趣旨を考えても、早めに完済する計画の方がよいでしょう。一方、5年の返済計画だと月々の負担が大きくて払いきれない恐れがあるが7年なら返済できる、というような場合には、交渉により、応じてくれる可能性があります。ただ、債権者によっては社内的に上限を5年と決めている、などで状況にかかわらず5年を超える分割和解ができない債権者もあります。一方、カード会社によっては、最大10年までの範囲で、上記の様な事情を考慮して応じるかどうかを決めているところもあります。
また、従来の取引期間が長い場合には比較的長期分割に応じてくれるが従来の取引期間が短い場合は難しいという債権者もあり、対応は一様ではありません。また、自社の債権額が多い場合は長期も応じるが、少額の場合は難しい、というような反応もよくあります。
家計に余裕がない場合にあえて任意整理を選ぶのであれば、各債権者の傾向を考えつつ、丁寧に交渉していくことが必要です。もちろん、交渉は弁護士が行いますが、家計の状況、返済中において予想される収入や支出の変化、などを考慮しつつ、提案内容を決めていく必要があり、弁護士とご依頼者様の間で丁寧に打ち合わせをしたうえで、交渉をしていくことが重要になってきます。
なお、業者による特徴について簡単に増えておくと、これまで交渉してきた中では、ニコス、オリコ、クレディセゾン、などが比較的長期の分割に応じてくれるケースが多く、エポスも6年~7年程度で和解できる場合はあります。また、ちょうど5年まで、というカード会社は多くあります。一方、アコムは取引が短い場合は厳しめの傾向があり、モビットもケースによりますが5年より短い上限を回答してくる場合も多いです。ただ、このような業者の対応は変わることもあり、また、同じ業者でも状況により異なるので、一概には言えないところです。
手続き選択に当たって考慮すべき事情
このように、任意整理については、実はかなりの長期分割ができる場合もあり、5年での返済計画が無理だからと言って必ずしもあきらめる必要はありません。
ただ、当然、収入から支出を差し引いて、返済原資を確保できることが不可欠ですが、ここで、返済期間に渡って支払い余力を維持できることが必要です。つまり、例えば、7年分割で和解できたとしたら、7年間、支払い余力を維持しないといけないので、債務者ご本人様の年齢(定年との関係)、ご家族の年齢(お子様がおられる場合は今後学費がかかる時期にならないか? 等)、収入の安定性、など様々な要素を考えないといけません。半面、今は車のローンを払っているけれども来年には終わりその分余力が出る、まもなくお子様が大学を卒業して学費負担がかからなくなる、というような事情は、プラスの要素でしょう。
このように、長期間の分割での返済を念頭に任意整理を行う場合は、その間に想定される様々な変化も考慮しつつ、和解交渉を進めていく必要があります。
もちろん、返済が厳しい時にも必ず任意整理を選択しないといけないというわけではないです。もし、持ち家などの資産がないのであれば破産手続きのデメリットは多くはないですし(ただし、一時的な職業の制限に注意)、住宅を残したい場合も民事再生が可能な場合は、住宅ローン以外の債務を大幅に減額できる可能性があり、それらの手続きを検討するとよいでしょう。破産や民事再生にもそれぞれメリット、デメリットがあり、どの手続きが良いかは、ケースによります。
ただ、様々な理由でぜひとも任意整理で解決したいという相談を受けることがよくあるので、その場合を念頭に、今回の記事を書きました。
手続き選択の問題は時には悩ましい問題であり、法律の専門家のアドバイスが必要な場合も多くあります。任意整理をするかどうか、民事再生や自己破産のほうが良いか、等、迷っておられる場合は、まずは弁護士にご相談ください。状況やご要望をお聞きして、どの方法が望ましいか、ご提案させていただきます。
当事務所では、債務に関する相談は、相談だけなら無料なので、まずはご相談ください。お電話か電子メールでご予約の上、立川の事務所までご来訪をお願いします。平日は10時~21時(電話受付:10時~19時)、日曜は10時~19時(電話受付:10時~19時)まで事務所を開けています。まずはお問い合わせください。