訴状が届いたら
ここでは、貸金業者(カード会社や消費者金融)や債権回収業者から訴状が届いた場合にどうすればよいか、について、解説させて頂きたいと思います。
1、 訴状とは?
訴状とは、裁判所に対して、訴えを起こすために提出された書面のことを言います。民事訴訟法133条において、訴えの提起は裁判所に訴状を出して行うことと、訴状には当事者及び法定代理人、請求の趣旨と請求の原因を記載しないといけないこと、が定められています。(簡易裁判所では口頭でも提起できることが民訴法271条に定められていますが、通常は簡裁でも訴状を出して提訴します)
訴状は裁判所に提出しますが、正本が裁判所に保管されて記録綴りに綴じられるのに対して、副本は裁判の相手方に送られます。ここで、相手方のことを被告と言います。貸金返還請求事件だと、借りていた人が被告となります。
つまり、債務者のお手元に届いたものは訴状の副本ということになります。
訴状は、基本的に、
- 請求の趣旨(「被告は原告に対して、金〇〇万円を支払え」というような、求める判決内容)
- 請求の原因(いつ、どういう内容の契約をして、どのようなカード利用がされて・・ というような、債務の発生原因)
- 当事者目録(原告の所在地と社名、被告の住所と氏名、など)
などから構成されています。さらに、証拠(契約書の写しなど)が添付されています。
丁寧に読むと、だれがだれに対して、どういう根拠で、どのような請求をしているのかがわかるようになっています。
2、 訴状と同時に送達されるもの
訴状を被告に届けることを送達と言いますが、この際、訴状や証拠とともに、期日呼出し状も入っています。そこに、第1回の裁判がいつ開かれるか、が書いてあります。その他、答弁書の書式が同封されているのが一般的だと思います。(答弁書は、弁護士は自分で作成するので裁判所の書式は通常使いません)
3、 訴訟の種類
訴訟には、様々な種類があります。建物明渡請求事件、債務不存在確認請求事件、損害賠償請求事件、など、請求する内容により、事件名が付けられているのです。では、カードを利用してキャッシングやショッピングを行い、返済ができなくなってしまった場合には、どのような訴訟を起こされるのでしょうか?
まず、キャッシングを利用して、返済できなくなり、もともとの債権者がそのまま訴訟をしてくる場合は、貸金返還請求事件となります。一方、ショッピングの場合は立替金請求事件、となるはずです。なぜなら、カードのショッピング利用は購入者が店舗に支払う金銭をカード会社が代わりに立替えて払い、利用者に請求する仕組みだからです。
それ以外に、債権譲渡を受けた債権回収会社等が提訴する場合は譲り受けた債権の請求なので、譲受債権請求事件、保証人として代位弁済したカード会社等が原告の場合は保証人として主債務者に求償する請求なので、求償金請求事件となります。
もっとも、重要なのは請求の趣旨と請求原因であり、事件の種類は参考になるという程度です。
4、 訴状が届いたらどうすべきか?
訴状が届いた場合、法律上は自分で対処するということも可能です。しかし、実際には、専門的な知識がないと対処が難しいので、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
では、弁護士に依頼したら、弁護士は代理人として、どういう対応をするのでしょうか?
ア、任意整理で解決したい場合
① 時効が成立していると思われる場合
最終弁済日から5年以上たっている場合は、時効が完成している可能性が高いです。厳密にいうと、期限の利益喪失から5年で消滅時効完成ということになるので、最後に返済してからちょうど5年ではなく1か月くらい経過していることが必要です。(返済期限を徒過した時点で期限の利益喪失となる契約の場合)
この場合は、弁護士は、答弁書で時効の援用を行います。そうすると、原告は取り下げることが多いですが、取り下げなかったとしても請求棄却となり、支払わなくてよくなります。
これによって、時効が確定すれば、以後、請求が来ることはなくなります。
ただし、時効中断事由があれば、別です。(改正法では時効の更新といいますが、この記事作成時点では問題になるのは改正前の債権のはずなので、「中断」と記載します。) 時効完成前に支払いの約束をしたり、実際に支払ったり、以前に訴訟をされて判決の確定から10年経っていなかったり、という場合は、中断により、時効は完成していません。また、時効完成後に支払ったり支払いを約束したりした場合も、信義則上時効の援用はできないと解されています。時効の援用が認められなかった場合は、他に反論できる事由があればともかく、それがない場合は、原告の請求に理由があることを前提に、和解交渉を行うこととなります。
*また、改正前の民法が適用される場合、信用金庫や公庫など非営利の団体からの個人(ただし、事業者以外)の借り入れは多くの場合時効が10年となるので、注意が必要です。
また、いずれにせよ、数社から借りていて時効ではない債権者もある場合は、時効ではない債権者については和解交渉を行います。
② 上記以外の場合
時効が完成していないと思われる場合は、弁護士は答弁書を出しつつ、和解交渉を行います。請求内容を確認し、ご依頼者様と協議しつつ、返済総額と返済回数を提案します。和解に至った場合は、訴訟上の和解(「和解に代わる決定」を用いることも多い)を行うこともあれば、訴訟を取り下げてもらい訴外で和解を行うこともあります。いずれの方法を採るかは債権者次第ということになりますが、いずれにせよ、ほとんどのケースでは和解ができます。
分割回数は、60回程度まで応じてもらえることが多く、さらに長い回数で和解できたケースもあります。なお、60回を超える場合には簡易裁判所でも和解に代わる決定ではなく出廷しての和解が必要という解釈もありますが、その場合でも、弁護士が代理人として出廷すれば問題ありません。
和解が成立すれば、その内容に従って、月々分割で支払っていくことになります。裁判上での和解の場合は、和解調書をご依頼者様にお送りしますので、その内容に従って支払いをしていくことになります。
なお、この場合、和解調書は債務名義となりますので、支払が遅れると差し押さえの可能性もあります。たいていは、支払いを2回分以上怠ると期限の利益を喪失するという内容になっているので、支払の際には遅れないように支払っていくことが重要です。
イ、 民事再生や自己破産で解決したい場合
時効ではない場合において、支払が難しいと考え、民事再生で大幅に減額したり自己破産で債務を消したいという場合もあるでしょう。その場合は、弁護士に民事再生や自己破産をご依頼いただければ、弁護士は応訴に関しては答弁書を出して、判決が出るのを先延ばしにしつつ、一方で申立書の作成を行い、準備ができたら、裁判所に民事再生または自己破産の申し立てをします。
ただし、再生や破産の申立てをするので次回期日まで時間を空けてほしい、あるいは次回期日は「追って指定」にしてほしいという要望を聞いてもらえる場合もあれば、通常通り期日が入ってしまう場合もあります。通常通り期日が入る場合は、判決、差し押さえ、と進んでしまう恐れもあり、速やかに申立てを行う必要があります。
5、 訴状が届いたのに何もしなければどうなるか?
訴状が届いたのに何もしなければどうなるでしょうか? もし、第1回の裁判期日までに裁判所に着くように答弁書を提出せず、当日出廷することもしなければ、通常は、原告の請求をそのまま認める判決が出ます。民事訴訟はこのような欠席判決が認められています。
この場合は、仮に時効の期間を過ぎていても考慮されません。なぜなら、時効は当事者が援用しないと確定しないからです。そうして、判決が出てしまうと、判決確定から10年間は時効の主張はできなくなります。
こうして判決が出ると、給与差押えなどの強制執行が可能になります。不動産に対する差押えがなされる場合もあります。
もっとも、判決後に弁護士に依頼しても交渉で和解ができるケースもあります。そこで、判決が出てしまっている場合でも、生活再建のために解決したい場合は、ぜひ、弁護士にご相談いただきたいと思います。しかし、差し押さえをされてからだと交渉が難航する可能性も高いです。なぜなら、債権者から見ればそのまま執行を続ける方が迅速に債権を回収できるからです。したがって、そのような事態になる前に対処すべきであり、訴状が来たらすぐに弁護士に相談することが望ましいと言えます。
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