民事再生で5分の1になる場合・ならない場合
1.小規模個人再生・給与所得者等再生における弁済率
民事再生では、開始決定時点における債務の総額を減額して、残りを返済します。この弁済する率を弁済率と言います。例えば、5分の1にするなら、20%のみ返済するので、弁済率20%となります。個人向けの再生手続きである小規模個人再生・給与所得者等再生では、弁済率に下限が決められており、それを下回る返済計画案は認められません。
2.「個人の再生では5分の1になる」は本当か?
個人の民事再生では債務を5分の1に減らせるという話を聞いたことがある方も多いと思います。本当にそれほど大幅な減額ができるのか、半信半疑の方もおられるかもしれません。では、実際のところ、5分の1まで減らせるのでしょうか?
これを考えるにあたり、小規模個人再生では、最低弁済額基準、及び、清算価値基準の両方を検討する必要があります。給与所得者等再生の場合はさらに可処分所得基準についても検討する必要があります。
まず、最低弁済額基準というのは、民事再生法231条2項2号、3号で定められています。この文言だけ読むとわかりにくいですが、簡単に言うと、債務額が500万円以下の場合は100万円が最低弁済額となり、債務額が500万円から1500万円までの場合は5分の1になり、1500万円から3000万円の時は300万円になり、3000万円以上の場合は10分の1になる、ということです。ただし、これはあくまで最低弁済額基準の話であり、以下に述べる清算価値基準も満たす必要があります。給与所得者等再生の場合は、さらに、可処分所得基準も満たさなくてはいけません。
また、自動的にその額に減額されるわけではなく、再生計画案を提出して認可されることが必要です。また、あくまで法の定める最低弁済額なので、これを上回る内容の返済計画案を提出することは問題ありません。
3.清算価値基準とは?
清算価値基準は、簡単に言うと、再生を申し立てた方(債務者)が持っている資産の額より少ない額まで減らすことはできない、ということです。つまり、例えば、債務額が500万円の場合、上記2の「最低弁済額基準」に従えば100万円まで減額できるはずですが、仮に債務者が200万円の資産を持っていたとすれば、200万円未満には減らせません。これは、公平ということを考えれば感覚的に理解できることですが、条文上は、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。」には再生計画案を不認可とするという形で定められています(法174条2項4号)。すなわち、そのような内容の再生計画案を認めるくらいであれば、資産を換価して返済した方が債権者一般の利益に資するので、認められない、というわけです。
ただ、ここで、「清算価値」という言葉が使われていることからわかるように、「持っている資産」というよりは、「破産手続きをとった場合に感化される資産」というほうがより正確だと思います。すなわち、清算価値を計算する際、破産手続きの場合の基準を用いて計算を行います。それゆえ、破産手続きの際に自由財産とされる財産は計算から除かれます。
清算価値に含まれるのは、例えば、東京地裁立川支部の基準だと、20万円以上の預貯金、99万円以上の現金、20万円以上の保険の解約返戻金、20万円以上の退職金(ただし原則8分の1で計算するので160万円以上の場合に問題となる。すでに退職が決まっている場合等には4分の1で計算される可能性がある)、などがありますが、一番問題になりがちなのが住宅(不動産)です。住宅資金特別条項を使う場合、住宅には抵当権が付いているはずですが、住宅の価値は、市場価格から抵当権者の持つ債権額を差し引いた額となります。それゆえ、オーバーローンだと0として計算されますが、逆に住宅の市場価格が残ローンを上回っていると、その差額は清算価値に計上されます。仮に住宅の市場価格が3000万円、住宅ローンが2700万円なら、価値は300万円となり、他に資産が一切ない場合、清算価値は300万円となります。そうすると、仮に最低弁済額基準では200万円だったとしても、最低300万円を返済する内容にしないと、再生計画案は認可されないことになってしまいます。
なお、実務上、破産の場合の自由財産の範囲は裁判所により異なるので、民事再生の場合の清算価値も裁判所により変わってくる場合があります。
4.可処分所得基準
小規模個人再生なら、最低弁済額基準と清算価値基準を満たせばよいのですが、給与所得者等再生では、さらに可処分所得基準を満たさなくてはいけません。可処分所得基準は、可処分所得2年分を下回る弁済額にはできないということであり、可処分所得は法令で計算方法が定められています。給与所得者等再生の場合、収入がある程度多いと、可処分所得が高くなり、結果、可処分所得基準の関係で思ったほど債務を減らせないことになりがちです。ただ、扶養家族の人数等にも影響されるので、給与所得者等再生を検討する場合には、まずは課税証明書や源泉徴収票などを用意して計算してみるとよいでしょう。
5.まとめ
上記のように、民事再生においては、債務総額が5分の1になる場合もありますが、5分の1までは減らない場合、逆に10分の1まで減る場合もあります。もともとの債務額、清算価値、さらに給与所得者等再生であれば可処分所得の額によって変わってきます。なお、住宅資金貸付債権、すなわち住宅ローンは上記のような減額の対象にはならないので(返済方法の見直しができる場合はありますが)、住宅付きの再生の場合は、住宅ローンの支払いを続けていけるかは、重要なポイントです。
このように、減額の割合は、ケースにより異なるので、ご自身の場合にどういう効果が見込まれるかは、民事再生に詳しい弁護士にご相談ください。当事務所では多くの民事再生案件を扱ってきました。もちろん、小規模個人再生、給与所得者等再生、いずれも経験があります。住宅のある場合、ない場合、関わらず、民事再生を検討されている方は、まずはご相談ください。
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