個人再生における再生委員の役割
再生委員とは?
個人再生(小規模個人再生、給与所得者再生)において、再生委員が選任されることがあります。再生委員については、民事再生法に業務内容等が定められており、再生債務者の財産及び収入の状況を調査したり、再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をする、などの業務を行うこととされています(民事再生法223条2項)。通常、裁判所の候補者名簿に登録されている弁護士の中から選任されます。
なお、東京地裁(本庁、立川支部とも)では、基本的にどの案件でも再生委員が選任されますが、さいたま地裁では選任されないケースが多いようです。
再生委員と申立人(再生債務者)のかかわり
再生債務者が再生委員とかかわるのは、まず、申し立てから比較的時間が経たないうちに面談を行う必要があります。すなわち、再生を申し立てると、しばらくすると再生委員が選任され、面談をするように裁判所から指示があります。面談は多くの場合、再生委員の法律事務所で行われます。この際、申立人に代理人がいる場合(つまり、再生手続きを弁護士に依頼している場合)は代理人も同席します。
再生委員は、再生に至った経緯、資産の状況、現在の家計や今後の生活再建のめどなどについて、質問をするので、申立人はそれに回答する必要があります。また、通帳の写し、保険の解約返戻金に関する書類、など、必要資料が不足している場合や最新の変化について調べる必要がある場合には、追完指示(追加での提出の指示)がされる場合もあります。
再生委員との面談は30分~1時間程度かかることが多いです。なお、法律的な話については、弁護士に依頼している場合は代理人弁護士が回答するので、ご安心ください。
再生委員はどういう役割を果たすのか?
上記のように再生委員は裁判所から選ばれた、通常は弁護士ですが、では、手続きの中でどのような役割を果たすのでしょうか? 一般的には、①開始決定を出してよいかどうか調査を行い裁判所に意見を述べる ②再生計画案の作成について助言をし、実際に提出された再生計画案について書面決議に付してよいか(小規模個人再生の場合。なお、給与所得者等再生の場合は債権者の意見を聴く手続きに付してよいか)、裁判所に意見を述べる ことになっています。(それ以外に再生債権の評価に関する業務を行う場合もありますが(法223条2項2号)、多くの案件では生じないところです) また、再生計画案可決後に③認可決定をすべきかどうかの意見も裁判所に提出します。また、履行テストに関する指示を行い、履行テストとしての入金を専用の口座で受け入れ、支払い能力に関する参考とします。
まず、①についてですが、民事再生は、申し立てをすればすぐに開始決定が出るわけではありません。まず、裁判所が家計の状況や資産の状況などを検討して、再生手続きを行うのに適していると判断したら、開始決定が出る仕組みになっています。ただ、裁判所は一定の事由がある場合を除き、開始決定をすることになっている(法33条、法25条)ので、その事由の有無を調査します。この際、裁判所自ら調査をすることもできますが、裁判所自身の業務の負担を考え、再生委員を選任して調査をしてもらう場合があるわけです。それゆえ、再生委員の選任がされないことが多い裁判所でも、複雑な案件の場合は選任される確率が高くなるでしょう。
また、②ですが、再生計画案とは、債務を何パーセント減額して、何年間で払うか、という計画案のことです。例えば、「債務の8割の免除を受けて、残りの2割を3年で支払う」というような案のことです。実際には住宅資金特別条項を定めたり、少額債権の特則を定めるケースもあったり、で、複雑な内容のこともありますが、いずれにせよ、再生が認められた場合にどれだけ減額してもらって、残りをどのように支払うか、という案のことだといえます。再生計画案は、民事再生法上、再生債務者が提出することになっていますが、代理人弁護士がいる場合は代理人弁護士が作成して提出します。
この再生計画案には、最低弁済率や、住宅資金特別条項の定め方など、いろいろと制約があり、それを満たした適法な再生計画案になっているか、をまず確認するのが再生委員の役割となっています。再生債務者(代理人)は再生委員に確認してもらってから、裁判所に再生計画案を提出する、という流れになっています。
③については、再生計画案可決後に、再生計画案を認可すべきかどうかの意見を裁判所に述べます。この段階で消極的な意見が出されることはめったにないですが、収入の変動などで支払い能力に疑問があるような場合には、ないとは言えません。したがって、履行テストの支払いや、(求められれば)家計一覧の提出を最後までしっかり行うことが重要です。
このように、個人再生の場合、再生委員は、開始決定と、再生計画案の提出、および認可に関して、重要な役割を担っています。いずれについても、裁判所は再生委員の意見を参考に決定をするので、再生委員の調査に協力して開始相当の意見を書いてもらうことは債務者にとって非常に重要です。なお、再生委員が選任されないケースでは、これらの調査は裁判所自身が行うことになりますが、東京地裁では、小規模個人再生・給与所得者再生の場合、どの案件でも再生委員が選任される運用となっているようです。少なくとも、当事務所でこれまで代理人として業務を行った東京地裁の案件ではすべての件で再生委員が選任されていましたので、東京地裁で申し立てる場合は再生委員が選任されると考えてよいでしょう。
まとめ
以上のように再生委員は裁判所の選任により業務を行っており、個人再生において、おもに、開始決定と、再生計画案の作成・認可に至る過程で重要な役割を果たしています。そこで、申立人(再生債務者)としては、良い結果を得るためには、再生委員の指示に従い、積極的に協力していくことが求められます。