ペアローンの場合の民事再生
1,ペアローンとは?
ペアローンというのは、法律用語ではありませんが、一般に、一つの不動産を買うのに夫婦などで二つのローンを組むことを言います。つまり、夫婦の片方だけの資金力では住宅を購入するだけのローンを組めないとき、夫婦それぞれがローンを組んで、同じ不動産を購入することがあります。このようなローンをペアローンと呼んでいます。
これは、一つのローンを共同で負担する「連帯債務」とは異なります。ローン(金銭消費貸借)自体が別々なのが特徴です。すなわち、一つの住宅の購入に関して、夫を借主とする住宅ローンと、妻を借主とする住宅ローンが別々の契約として存在するわけです。その結果、住宅(土地、建物)は夫婦で共有となります。
ただ、連帯債務でも共有となるので、共有だからペアローンとは限りません。連帯債務か、ペアローンかは、土地・建物の登記簿謄本(全部事項証明書)を確認すればわかります。
2, ペアローンの場合の抵当権の設定
ペアローンの場合、抵当権は2個設定されます。つまり、債権が別々なので、抵当権も別々に設定されるので、同じ土地、建物に2個の抵当権が設定されることになるわけです。
3, ペアローンと民事再生に関する問題
では、ペアローンの場合に、民事再生(小規模個人再生、給与所得者等再生)は可能でしょうか? まず、住宅(持ち家)を残すためには、住宅資金特別条項を設定しないといけません。住宅資金特別条項というのは、簡単にいうと、住宅ローンだけは支払っていく、という定めのことです。他の債務を減額しても住宅ローンは支払っていくので、抵当権を実行されることなく住宅を残せるという手続きです。
ところが、民事再生法には、住宅資金特別条項を設定する場合、住宅資金貸付債権、簡単にいえば住宅ローン以外の抵当権が付いていてはいけないという決まりがあります(198条1項但書)。そうすると、例えば、ご主人様が民事再生をしようと考えた場合、奥様の住宅ローンはご主人様の手続きの関係では住宅資金貸付債権(住宅ローン)ではないので、形式的には、住宅ローン以外の抵当権が付いているということになります。
4,ペアローンでも民事再生(住宅資金特別条項)を利用できるか?
上記のように、ペアローンの場合、形式的に見ると自身の住宅ローン(住宅資金貸付債権)以外の債務についての抵当権も付いているので、民事再生において住宅資金特別条項の設定ができないようにも見えます。しかし、それでは住宅ローンの組み方次第では民事再生で住宅を守れないことになってしまい、個人向けの民事再生(小規模個人再生、給与所得者等再生)が導入された意味が薄れてしまいます。そこで、実務では、ペアローンの場合も、一定の条件を満たせば、住宅資金特別条項を認める扱いがされています。
すなわち、住宅資金貸付債権以外の抵当権がある場合に住宅資金特別条項を使えないとしている実質的な意味を考えて、ペアローンの場合は例外的に住宅資金特別条項の設定を認める扱いが行われています。(ただし、すべての裁判所でこのような扱いが行われているかは確実ではありません。東京地裁ではこのような扱いが一般的であると考えられます)
また、無条件に認めるわけではなく、要約すると、1,夫婦両方が同時に民事再生を申し立てるか 2,夫婦の片方だけの申立ての場合はもう一方の債務について抵当権の実行がされる恐れがないといえること が求められていると解されます。すなわち、せっかく住宅資金特別条項の設定を認めて民事再生を認可しても、配偶者の住宅ローンについて滞納が生じて抵当権を実行されてしまうと、住宅を失うことになってしまうので、意味がありません。そこで、夫婦双方について民事再生を申し立てて夫婦とも債務の弁済を問題なく行える状況にするか、あるいは、片方だけ申し立ての場合は家計の状況や債務の状況等に照らして申立てを行わない方も問題なく返済を続けることができる状況にあることを明らかにするよう求めることで、配偶者の債務の抵当権の実行で住宅が失われる事態が起きる恐れがないことを確認してから認可をするというのが実務の傾向のようです。
したがって、ペアローンの場合でも、住宅付きの民事再生はできる可能性はありますが、あくまで実務上裁判所が民事再生法を合理的に解釈して一定の範囲で認めているということであり、必ず、というわけではありません。ただ、多くのケースで認められているのも事実だと思います。
5,民事再生については、まずは弁護士にご相談ください
このように、民事再生、特に住宅資金特別条項を用いた再生(住宅ローンを支払いつつ、それ以外の債権を減額する手続き)においては、ペアローンの場合には、配偶者の一方の単独のローンや連帯債務の場合と比べて、複雑な問題があります。一方で、ペアローンの場合にも、認められたケースは珍しくないと考えられます。
民事再生(小規模個人再生、給与所得者等再生)は、確かに様々な要件があり複雑な手続きですが、成功すれば、住宅を残しつつ一般の債権を大幅に減らすことができますので、状況によっては、生活再建のために大きな効果を期待できます。民事再生をするかどうか、迷っておられる方、また、ぜひこの手続きで生活を再建したいという方は、まずは弁護士にご相談ください。
当事務所では、多くの方の民事再生案件を扱ってきました。個人の民事再生については、ぜひ、ご相談頂ければ、と思います。