住宅がある場合の民事再生のポイント
1、持ち家を残しながら行う民事再生手続きについて
個人の民事再生は、小規模個人再生・給与所得者等再生の2種類があります。いずれにおいても、住宅(持ち家)を残す手続きを定めることができます。これを、住宅資金特別条項と言います。住宅資金特別条項を定めた場合、住宅ローンは従来通り支払っていく必要があり(支払方法を変更する方法もありますが、総額は減額されないです)、それ以外の債務を減額する内容の再生計画案を提出することになります。なお、再生計画案において、一般の債務は3年で返済するのが原則ですが、特別な事情があれば5年での返済も認められます(その間も可能です)。
したがって、住宅ローンを払いつつ、それ以外の債務については減額されたものを3年ないし5年で返済することができるかどうか、が住宅を残しつつ民事再生ができるかどうかということのポイントとなります。
もっとも、住宅があることにより、一般債権の減額幅にも影響する場合があり、以下では、そのことにも触れつつ、住宅付きの民事再生を行う場合に留意すべきポイントについて詳しく述べていこうと思います。
2、なぜ住宅資金特別条項が必要か?
民事再生を行う場合、一般の債権は元の債務に弁済率をかけた金額だけを支払えばよいことになります。すなわち、弁済率が20%の場合は、500万円の債務でも100万円に減らせるということです。
しかし、もし、住宅ローンも5分の1に減らしてしまうと、住宅ローン債権者(銀行や信用金庫など)は抵当権を実行するでしょう。そうすると、住宅が競売にかけられてしまいます。それを避けるためには住宅ローンだけは支払う必要があります。他の債権者には支払わない(弁済率をかけた分しか払わずに後は免除を受ける)にもかかわらず住宅ローンだけは支払うということは民事再生の原則から考えると、不公平な弁済として認められないようにも思えます。実際、もし、民事再生法の原則をそのまま適用するとそうなってしまいます。そこで、民事再生法は、住宅資金特別条項という仕組みを導入し、再生計画案においてこの条項が定められている場合は、住宅資金貸付債権(住宅ローン)だけは全額支払っても良いこととしたのです。
したがって、住宅(持ち家)を残したい場合は、住宅資金特別条項を定めて住宅ローンを支払い続けないといけません(なお、認可前の手続き中も支払うためには、裁判所に申立て時に弁済許可を申請します)。
3、住宅資金特別条項を定めることができる条件
ここでは、住宅資金特別条項を定めることができるための条件として代表的なものを挙げてみました。
1,住宅資金貸付債権があること
住宅資金特別条項を定めるためには、住宅資金貸付債権があることが必要です。住宅資金貸付債権はいわゆる住宅ローンのことですが、その定義は、民事再生法196条3号に定められています。簡単に言うと、
- 住宅の建設、購入に必要な資金、(土地や借地権を購入する資金も含む)または住宅の改良に必要な資金の貸し付けにかかる債権であること
- 分割払いであること
- 当該債権又は求償債権のために抵当権が住宅に設定されていること
です。
2,住宅に住宅資金貸付債権以外の抵当権が設定されていないこと
住宅に他の抵当権がないことが必要です。すなわち、住宅に、住宅ローン以外の債権を担保するために抵当権が付いていると、再生のために支払いを止めるとその債権者の申立てで抵当権が実行される恐れがあり、そうすると住宅が失われてしまうため、住宅を残すための手続きを認める意味がありません。それゆえ、住宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合も、住宅資金特別条項は認められません。例えば、住宅(土地や建物)を担保に消費者金融から借り入れをしているような場合には、住宅資金特別条項を使えないことになります。
ここで、問題になりうるのが、住宅ローンの借入目的に諸費用が含まれている場合や、住宅ローンの他に諸費用ローンもあり諸費用ローンのためにも抵当権が設定されている場合です。諸費用ローンは住宅購入時の手続き費用、登記費用など購入代金そのもの以外の関連する費用のための貸し付けであり、住宅ローンそのものではないと考えられ、住宅資金特別条項が適用できるのか、問題になるわけです。もし、諸費用ローンが住宅資金貸付債権ではないとすると、一般債権を担保するための抵当権が住宅に付いていることになり、住宅を残したまま再生をすることが難しいということになってしまいます。
しかし、実務上は、利用目的、借入金額(特に住宅ローン本体に対する割合)、などを検討して、諸費用ローンも住宅ローンと同一に扱い、住宅資金特別条項の利用が認められることが多いです。
3、住宅以外の不動産も住宅資金貸付債権の担保にしている場合後順位抵当権がないこと
住宅以外の不動産も住宅ローンの共同担保にしている場合、その不動産に後順位の別の抵当権がないことが必要です。これは、共同担保となっている不動産の後順位抵当権者は共同担保の抵当権者の抵当権を代位行使できるため、結局、住宅が失われてしまうことになりうるからです。
4、再生債務者が居住するための住宅であること
その住宅が再生債務者(申立人)自身が居住するためのものであること、も必要です。条文上の根拠は法196条1号に定められている住宅の定義の問題です。このような定めがされたのは、住宅付きの再生手続きが債務者の生活を守るために制定されたものだからだと解されます。なお、もともとご自身が住む予定だったが単身赴任などで一時的に離れていて家族が住んでいる、という場合は問題はありません。
また、店舗兼用住宅など住宅以外の目的にも使っている場合は床面積の2分の1以上が専ら居住の用に用いられていれば問題ないです。
4、清算価値の問題
民事再生においては、返済総額が清算価値を下回る再生計画案は認められないという原則があります。これを清算価値保障原則と言います。清算価値というのは破産して財産を清算した場合の価値のことといい、簡単に言えば、持っている財産の価値より下回る返済計画案は認められない、ということです。
清算価値に含まれるものは、
- 住宅の価値(査定額から住宅ローンの額を差し引いた額)
- 退職金の8分の1
- 預貯金(20万円以上の場合)
- 保険の解約返戻金(20万円以上の場合)
- 現金(99万円以上の場合)
- 自動車(20万円以上の場合)
などがあります。(預貯金などについて計算に含める金額は裁判所により異なる場合があるので、目安です。上記は東京地裁の一般的な扱いを念頭に記載しています) 未分割の相続財産も法定相続分で計算して算入します。
ここで、住宅がある場合には、住宅の査定額から住宅ローンの残高を差し引いた額が清算価値に算入されるため、住宅がある場合には、清算価値が重要となる場合が多いのです。ここで、査定は2社以上の不動産業者から取得して提出する必要があり、その平均値を採用します。
もし、債務総額が500万円だとして、最低弁済額基準だと100万円まで減額できます。しかし、もし、「住宅の査定額が2000万円。住宅ローン残高が1800万円」の場合は、清算価値は200万円となり(つまり200万円の資産を持っているとされて)、再生計画案を作成する際に最低でも200万円は返済する計画にしないといけなくなります。なお、この例は住宅以外の資産がない場合を考えており、もし、他にも資産があれば、その額も清算価値に加えることになります。一方、住宅が共有である場合は、清算価値へ算入される割合は共有持ち分の割合により決まってきます。この計算は時には複雑なので、詳しくは弁護士に相談頂きたいと思います。
住宅がなくても清算価値は問題になりえますが、住宅がある場合、住宅ローンの残高を上回っている分が清算価値に計上しないといけないので、清算価値が高くなりがちです。もちろん、オーバーローン(ローンの残高のほうが大きい場合)の場合は住宅の清算価値はゼロですが、購入後長く返済してきている場合等には、住宅の価値のほうが高い場合が珍しくないので、注意が必要です。
5、住宅がある場合に民事再生で必要な資料
住宅資金特別条項の適用により住宅を残したい場合、
- 不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
- 査定書(2社以上)
- 固定資産評価証明書
- 住宅ローンの償還表
- 住宅ローンの契約書
などが必要です。さらに、諸費用ローンがある場合はその利用目的が分かる書類を求められる場合があります。
これらのうち、住宅再生のご依頼の場合に、先に弁護士が拝見したいものとしては、やはり、全部事項証明書(登記簿謄本)です。住宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていたり、共同担保の不動産があって後順位抵当権が付いていると住宅資金特別条項が使えない(住宅を残す手続きができない)ことになってしまうからです。そこで、あらかじめ登記を確認させて頂きたいです。また、査定書に関しては、できれば、ご依頼前に少なくとも1社分は確認できれば、と思います。これは清算価値を調べて、どこまで減額できるかを検討するためです。もっとも、査定については、明らかにオーバーローンという場合は、最初の時点で頂かなくても裁判所に申立てをする前に頂ければ、問題ありません。
また、忙しくて法務局に行けないという場合は再生をご検討の場合当事務所で全部事項証明書を取得することも可能です。(住宅の査定についても、当事務所で代行取得ができる場合もあります)
住宅ローンの償還表と住宅ローンの契約書は、弁護士が住宅ローン債権者(銀行など)に受任通知を送って送付してもらうことができます。
6、住宅がある場合の民事再生についてのまとめ
住宅(持ち家)がある場合に、住宅を残しつつ民事再生を行うためには、住宅資金特別条項を定める必要があります。住宅ローン以外の抵当権を住宅に付けている場合等、この方法が使えない場合もありますが、多くの方がこの方法で住宅ローン以外の債務を減らして、生活の再建に成功しています。
ただ、清算価値の関係で、思っていたほど債務を減額できない場合もあるので、あらかじめ住宅の査定を採り、清算価値を調べておくと良いでしょう。再生計画案に従って減額した後の金額を3年ないし5年で返済する必要があるため、清算価値の問題は月々の返済額にも影響します。それゆえ、履行可能性にも関わる場合があるので、重要な要素であるということができます。
いずれにせよ、住宅を残す民事再生手続きは複雑な手続きなので、まずは弁護士にご相談ください。当事務所は、住宅付きの再生を含め、数多くの民事再生事件を扱ってきました。民事再生については、ぜひ、当事務所までご相談ください。なお、当事務所では、債務整理(民事再生、任意整理、破産、など)に関しては、相談だけなら無料です。お電話か電子メールでご予約の上、ご来訪をお願いします。