自己破産の手続きで「退職金額がわかる書類」を求められる理由
破産手続きを申立てるには退職金の額がわかる書類が必要
自己破産の手続きをする際に社員等で働いていると、退職金の金額がわかる書類の提出を求められます。退職金規定があって、それに基づいて計算ができる場合は、退職金規定の写しを提出すれば問題ありません。お勤め先に特に理由は伝えなくて良いので、コピーを取らせてもらいましょう。
なお、退職金制度がない場合には、雇用契約書など、そのことが分かる書類の提出が必要です。お勤め先に退職金はないという証明書を出してもらうという方法もあります。パートや派遣など一般的に退職金制度がない雇用形態の場合は基本的に不要だと考えられます。
*最終的には裁判所の判断となります。雇用形態の確認のために雇用契約書を求められる可能性もあります。
基本的に退職する必要はない
破産手続きをとったからといって退職する必要はありません。
(ただし、警備員のように「破産者であって復権を得ていない者」が就いてはいけない仕事に従事している場合や、いわゆる保険の外交員のように「破産者であって復権を得ていない者」が欠格事由になっている場合には、退職せざるを得ない場合もあります)。
基本的には、そのまま仕事を続けることができるのに、なぜ退職金が分かる資料が必要なのでしょうか? 実は、退職金も資産と見なされるからです。破産手続きは資産を換価して債権者に配当する手続きなので、資産である退職金額がわかる書類が必要なのです。
もっとも、そのままの額で資産と見なされるわけではなく、通常は8分の1で計算されます。例えば、退職金の額が800万円であれば、100万円とされるわけです。
ただし、退職の時期が具体化していると4分の1、実際に受け取って口座に入っていればそのままの額で評価されます。
どの時点の退職金か?
退職金を資産と見なすというと、では、60歳、あるいは65歳で定年になったときに支払われる額が資産と見なされるのかと思って、それではかなりの金額になってしまうと不安になるかもしれません。しかし、実は、定年時の退職金額ではなく、開始決定の時点の額が基準になります。申立てをすれば通常は即日~1か月程度のうちに開始決定が出るので、申立て時点の額で判断されるのが一般的です。
つまりは、裁判所に、「自己破産お願いします」という趣旨の書類(申立書)を出す時点の額で良いのです。
退職金額が多いとどうなるか?
開始決定時点における退職金額が多い場合、破産手続きにおいては、どういう問題が生じるでしょうか? まず、160万円未満の場合は8分の1にして20万円未満なので、すでに退職時期が具体化しているなど例外的な場合を除いて、換価が必要な資産としては取り扱われません。一方、160万円以上だと、8分の1でも20万円以上なので、資産として扱われます。しかし、実際に手元にあるお金ではないので、そのままでは管財人が債権者に配当することはできません。そこで、破産者は、同額(8分の1の額)を管財人に支払い、財団に組み入れることになります。管財人はそこから経費(管財人報酬も含めて)を支払い、残りを債権者に配当する手続きをとります。
管財人への支払いは、金額にもよりますが、基本は、分割でも可能です。どのような方法(一括か、月々いくらか、賞与時にある程度まとめて払うか、など)は、基本的に、申立て後速やかに行われる管財人面談の際に決めることになります。そうして、支払が終わってから、手続きは終結することになります。
逆に言えば、このような形で資産があるとされると、同時廃止ではなく、少額管財事件になるということです。
以上は、東京地裁本庁及び立川支部を前提とした解説です。裁判所によっては、特に、8分の1にした額が99万円以下の場合は、自由財産拡張申立てが比較的緩やかに認められる可能性があり、自由財産拡張が認められれば、換価(財団組み入れ)をせずに済むことになります。