法人破産における「密行型」の申立てとは?
1、一般的な破産手続きの流れ
個人の破産手続きの場合、弁護士は依頼を受けると債権者(銀行、カード会社、消費者金融など)に受任通知を送り、弁護士が介入したことを知らせます。そうすると、債権者は取引履歴を送ってくるので、それを元に債権額を調査し(過払い金の有無も確認します)、申立書に添付する債権者一覧表を作成します。このような流れで行うことで、正確な債務額を調査して、申立書に記載することができます。
もちろん、ご依頼後、申し立てまでの間に、資産の調査、借り入れや返済が困難に至った事情についての聞き取り(陳述書作成)、家計の状況の確認、各種書類(通帳2年分の写し、退職金額がわかる規定の写し、登記簿謄本(全部事項証明書)、給与明細2か月分、など。必要書類は案件により異なる部分もあります)の収集、など様々な作業を行い、申立書を完成させていきます。
法人の破産の場合も、基本的にはこの流れですが(必要書類は異なりますが)、これとは異なる方法をとる場合もあります。
2、「密行型」の申立て
上記1のような流れで行うことには、債権の調査を正確に行うことができる、受任通知を出しておいて支払いを止めてから充分時間をかけて準備ができる、というメリットがあります。
しかし、一方で、債権者に通知を出すことで当然債権者は事態を知ることとなりますが、債権者を平等に扱わないといけないので、金融機関だけではなく、買掛債務がある取引先や個人債権者(借り入れをしている知人など)にも伝えないといけなくなります。そうすると、銀行やカード会社などの金融機関は取り立てを止めてくれても、取引先の中には納品した商品を引き上げるなど破産法上問題のある方法で債権回収を図る業者が出てくる可能性があります。また、一部の個人債権者が代表者に執拗に弁済を迫る、というような問題も起きがちです。そのような要求に従って支払ってしまうと原則として偏波弁済になってしまいます。
また、事業停止から申立てまで時間がかかることで開始決定が遅くなると未払いの労働債権について3か月が経過して財団債権から外れてしまうという問題もあります。従業員にとっても、事業を停止したけれども破産手続きへ進んでいない状況は不安定で、給与の立て替え払いの手続きをしてもらうにも支障が生じかねず、望ましい状態とは言えません。
以上のような理由から、事業停止から申立てまで時間をかけることは場合によっては望ましくないと言えます。
そこで、弁護士に正式に依頼する直前まで通常通り操業し、相談から依頼までの間に打ち合わせを繰り返して申立ての準備を行い、依頼と同時に事業停止、従業員を解雇、また、債権者に通知を発しつつ、取引履歴の到着を待たずに破産申し立て、という方法をとる場合があります。これを「密行型」と呼ぶことがあります。
この場合、従業員に対しては、実際に事業を停止する段階で初めて説明し、解雇予告手当を支払って解雇するという方法を採るのが原則です。
この「密行型」の申立ては、債権者、特に取引先(買掛債務がある業者)や個人債権者との関係でトラブルが起きることを未然に防ぎ、速やかに管財人に引き継ぐことができる点でメリットがありますが、反面、債権者からの回答(取引履歴の送付)を待たずに申立てるため、債権調査が不十分になりがちという問題点もあります。また、事業停止後すぐの申立てとなるため、法人の状態の把握を速やかに行う必要があります。
したがって、この方法を行うときは依頼者(その代表者等)と弁護士で正式依頼前から繰り返し打ち合わせを行い、各種資料を準備して、弁護士が法人の状況を十分に把握したうえで申立書を完成させる必要があります。重要な部分はしっかり作っておかないと開始決定が出るまで時間がかかってしまうし、資産の確実な確保(売掛金の回収など)や契約関係の処理に支障が生じかねないので、この準備は重要です。
そこで、相談後、破産手続きを行うと決めたら、最終的な依頼の前に、買掛先を含むすべての債権者を一覧表にする、資産の目録を作る、未回収の売掛金の一覧を作る、オフィスや工場の契約条件を明らかにする、従業員の一覧表をつくり賃金の支払い状況を検討する、等の作業を相談後、速やかに行う必要があり、弁護士は依頼(予定)者の代表者等と協力してそれらの作業を行いつつ、申立書を準備していきます。そのうえで、正式の依頼後に裁判所に提出するという形になります。
また、この方法で行う場合、事前に話が広まってしまうと意味がないので、従業員にも破産の予定を伝えず、基本的に代表者だけで弁護士との打ち合わせを行う必要があります。(少数の信頼できる従業員にだけは状況を説明して打ち合わせに参加してもらうこともあります。経理担当者にだけ状況を説明して手伝ってもらうケースはよくあります)
3、「密行型」で行う場合の弁護士の選び方
「密行型」の申立ては、相談から受任までの短い間に様々な準備をしないといけないので、それなりに経験のある法律事務所(弁護士)に依頼することをお勧めします。当事務所では、「密行型」も含めて、多くの法人破産の申立て経験があります。
取引先などの債権者が多い、まだ事業を継続している、従業員を雇用している、など対応すべき事項の多い法人破産も、ぜひ、ご相談ください。