「法人は破産・個人は民事再生」は可能か?
いわゆるオーナー企業の場合で経営が立ち行かなくなったとき、法人も代表者の方も両方が破産手続きをとる場合があります。これは、法人の債務について代表者の方が連帯保証をしているケースが多いからです。つまり、銀行や信金等から事業資金を借りる際に、多くの場合、代表者が連帯保証をしています。その場合、法人が破産をして支払いを止めれば、個人に請求がなされます。そこで、法人と個人の両方が破産をし、個人は免責を受けることでそれ以上請求がされないようにして、個人は生活の再建を図る、という方法が一般的です。
ただ、この場合、個人の資産は原則として換価されてしまいます。つまり、住宅に関しては、管財人が売却してその代金は抵当権者に優先的に支払われ、余剰があれば配当に回る、のが原則で、場合によっては申立前に支払いを停止したことで競売に進むこともありますが、いずれにしても持ち家は基本的に失われます。
そこで、法人は破産をしても個人については民事再生をして住宅を残すことはできないでしょうか? これについては、制度的に不可というわけではないと考えられます。ただ、様々な問題が考えられます。
1、支払いが可能か?
民事再生は債務を減額した後、分割で支払う手続きです。それゆえ、安定した収入がないといけません。代表者が次の仕事を見つけて安定した収入を得ることが不可欠となります。また、減額後の債務を返済していける収入の水準が求められます。
2、債権者の異議(不同意の意見)は大丈夫か?
小規模個人再生の場合、債権者数の半数以上または債権額の過半数の異議(不同意の意見)が出れば再生計画案は認められません。法人破産の場合、大口の債権者がいることが多く、それら債権者の動向次第では異議が不認可の要件に達してしまうこともあり得ます。もっとも、経験上、カード会社や消費者金融は異議を出さないことがほとんどであり、また、銀行等も異議を出すとは限りません。それゆえ、実際に問題になるかはケースによるでしょう。
なお、債権者の不同意による不認可という仕組みがない給与所得者等再生を選択するということも考えられますが、給与所得者等再生の場合は収入の変動が少ないと見込まれることも要件となっているため、給与所得者としての勤務期間がまだ短い場合に認められるかは何とも言えません。一般には過去2年分の給与の変動を見ることが多いのですが、代表者を辞めて他の仕事についている場合、まだ期間が短いのが一般的だと思います。その点が問題になる可能性はあります。(ただし、小規模個人再生の場合は変動に関する要件はないですが、反復または継続して収入を得る見込みは必要です)。
3、後順位抵当権がついていないか?
住宅に後順位抵当権があると、住宅資金特別条項(住宅ローンを支払いながら再生をして住宅を残す手続き)は使えません。例えば、事業資金を借り入れたときに住宅の土地や建物に住宅ローンより順位が後の抵当権を設定していると、住宅を守りながら再生をすることはできません。
4、住宅ローン以外の債務額は5000万円以下か?
再生債権の額が5000万円を超えると、小規模個人再生及び給与所得者等再生を利用できません(住宅ローンはここに含まれません)。もっとも、通常再生は可能ですが、通常再生は予納金も高く、債権者の積極的同意が必要であるなど、仕組みが大きく異なり、個人が使うことは現実的ではないと思います。
*住宅ローン以外にも5000万円の計算において除外されるものもありますので、詳しくはご相談ください。
このように、法人について破産手続きを選択しつつ代表者個人が民事再生を選択する場合、様々な事項を検討して可能かどうかを考えていく必要があります。また、上記は法人の代表者ということで特に検討しないといけないことを挙げたものであり、クリアすべき事項がそれですべてというわけではありません。
民事再生は複雑な手続きなので、ご検討されている方は、まずは弁護士にご相談ください。