完済後の過払い請求の流れと注意点
1 完済後でも過払い金請求は可能です。
最近、すでに完済している場合の過払い金返還請求についてのお問い合わせをいただくことがあります。そこで、完済後における過払い請求の可否と流れについてお話しさせていただきます。
まず、完済後でも過払い金の請求をすることは可能です。ただし、時効(消滅時効)になる前に請求する必要があります。
時効は原則として完済から10年ですが、いったん完済して再度借り入れるまで取引がない期間(空白期間)がある場合は、別々の取引として扱われて空白期間の前の取引(前半の取引)については前半の取引の終了時点から時効期間を数えるとされる場合もあるので、要注意です。これを、分断計算といいます。
もっとも、空白期間があれば必ず分断計算になるわけではなく、基本契約が同一で空白期間が比較的短ければ一連計算とされることも多く(ただし、他の要素も考慮されることがあります)、一方基本契約が別々の場合は原則として分断計算とされます(ただ、これにも例外があります)。
また、取引に空白はなくてもある時点を境に取引の種類が変わっている場合は、その時点を境に分断計算とされる可能性がある点にも注意が必要です。例えば、繰り返し借り入れが可能な無担保ローンから一度借りて後は返済するだけの不動産担保ローンに切り替えている場合は、分断計算とされる可能性が高いです。
また、貸付停止がされていた場合においては各回の返済から起算するべきという主張もあり、この点についてもケースによっては業者側の主張が通る場合もなくはないので、注意が必要です。
なお、改正後の民法が適用される場合は、ケースによっては上記に加えて時効の主観的起算点にも注意が必要となってきます。すなわち令和2年4月施行の改正民法が適用される場合には、従来同様の10年間の期限と「権利を行使できることを知ってから5年」という主観的起算点に基づく期限とのいずれか早い方で時効になってしまいます。ただ、「権利を行使でききることを知って」というのがどういう状況を言うのか、どの程度具体的に認識していれば当てはまるのかは今のところはっきりしません。また、改正前に発生した過払い金については現在も改正前の民法が適用されます。
いずれにせよ、過払い金が気になったら、時効になってしまうのを防ぐためにも、できるだけ早く弁護士にご相談頂きたいと思います。
*なお、それ以外にも当該貸金業者の法的整理(破産や会社更生等)や、経営状況の悪化により請求ができない場合、困難な場合もあります。
2,完済後の過払い金請求の流れ
では、実際に完済後に過払い金返還請求をした場合、どのような流れで手続きは進んでいくのでしょうか? まず、弁護士にご依頼頂ければ、弁護士は依頼者の方が取引していた貸金業者(消費者金融、カード会社等。過払い金が発生しうるのは貸金取引(いわゆるキャッシング取引)があった場合のみ)に受任通知を送り、取引履歴を取り寄せます。取引履歴が届いたら、利息制限法の上限利率で計算しなおします。利息制限法の上限利率は元金が10万円未満の場合は20%、元金が10万円以上100万円未満の場合は18%、元金が100万円以上の場合は15%です。なお、元金が一度区切りとなる金額(10万円、100万円)を超えたら、返済により減っても上限利率は下がりません。逆に言えば、上記を超える利率での取引がなかった場合は、過払い金はないということになります。
*通常取引の利率です。遅延損害利率は通常の利率の1.46倍まで認められています。
計算の結果、過払い金があった場合は、弁護士は当該貸金業者に、返還を求める金額を明記して、過払い金の返還を求める書面を送ります。それに対して当該貸金業者から返還可能な金額と返還時期についての回答が来ます。その内容で良いということであれば、その旨回答すれば和解となり、代理人弁護士と当該貸金業者の間で和解書を取り交わして、あとは和解の内容通りに過払い金が支払われるのを待つだけ、となります。もちろん、和解をする前にはご本人様に和解で良いか、確認します。また、過払い金が戻ってきたときには、その中から弁護士費用を差し引いてお返しすることとなります。
一方、金額等について合意できずに交渉での解決が難しいことで訴訟に進める場合もあります。もっとも、最初の案に納得できなくてもすぐに訴訟にするのではなく、ある程度交渉してから和解か訴訟かを判断するのが一般的です。交渉は、基本的には、金額をできるだけ計算上の数値に近づける方向での交渉となりますが、早めの返還を重視する場合は返還時期を重視しての交渉をすることもあります。また、最初から計算上の金額に近い額で提案をくれるか、あるいは交渉すれば計算上の額に近くなるか、返還まで何か月くらいか、ということは、貸金業者によりかなり近いがあり、一概には言えません。また、ここでいう計算上の額というのが、過払い金そのもの(いわゆる0%元金)か、過払い金に年5%(改正法適用だと3%)の利息を付けた額か、という問題もありますが、交渉の段階だと元金を超えて利息を付けるのは難しいという貸金業者が多いです。
ご依頼から、過払い金が戻ってくるまでの期間は、どの業者(消費者金融、カード会社等)かにより異なる部分が大きく、また、個々のケースによっても異なりますが、和解で終わる場合、経験上、概ね半年~1年くらいの範囲に収まることが多かったと思います(データを分析したわけではなく、あくまで、感覚ですが)。例えば、受任から取引履歴開示まで2か月、計算に1か月、交渉に1か月、和解から入金まで3か月、というケースだと合計7か月かかっていることになります。実際はこのようにいずれの段階もぴったり何か月ということはまずないですが、やはり、ご依頼から過払い金が返金されるまで半年~1年くらいのことが多く、一部の業者はもう少しかかる傾向がある、といったところだと思います。
3,訴訟になった場合の流れ
では、訴訟になった場合は、どのような流れで進むのでしょうか。まず、訴状を裁判所に提出すると、裁判所から期日の候補日の連絡が来ます。これに対しては代理人弁護士が都合の良い日時を回答します。そうすると、第1回の期日が決まります。第1回の期日前には被告である貸金業者から答弁書が提出されます。この際に具体的な反論がされる場合もありますが、追って答弁する、という内容の簡単な答弁書だけが出されることも多いです。
被告である貸金業者からは多くの場合、訴訟と並行して和解の提案が来ます。たいていは、提訴前より金額的な水準は上がっているので、判決に行くまでに和解することも多いです。
ただし、訴訟にすれば必ず金額が増えるわけではなく、分断計算などの論点がある場合、提訴前の提案が撤回されて逆に低い内容の提案がされることもなくもないです。それゆえ、提訴前にどのような争点が考えられるかはよく検討する必要があります(弁護士にご依頼の場合は、弁護士が検討し、依頼者の方に説明します)。
もっとも、大きな争点がない場合は提訴後は相手方貸金業者から、よりよい金額で和解の提案が示されることが多く、かつ、訴訟中に交渉しているうちに訴訟が進行するに従って和解の案として相手方から提示される金額が上がっていくことも多いです。また、原告側(過払い金を請求する側)からこの額なら和解するという案を出して交渉することもよくありますが、そのような原告側からの提案に対する返答も提訴前より請求者側に有利なことが多いです。そうして訴訟と並行して交渉をして合意に至れば、訴訟上で和解をするか、和解後入金を待って訴訟を取り下げることになります。したがって、判決まで進めるケースは比較的少数です。
ただし、取引の分断、貸付停止による時効の個別進行の主張、など争点がある場合で、双方譲らなければ一審の判決まで進んだり、時には一審判決後にいずれかまたは双方により控訴される場合もあります。もっとも、そのような争点がある場合も、多くの場合、裁判所が和解へ向けた調整をするので、和解で終わることも多いです。すなわち、法的争点があり双方譲らない場合は、裁判官から和解の案が示されることも多く、その案に双方が応じれば和解が成立するので、大きな争点がある場合でも和解に至ることは珍しくありません。裁判所が示す和解案は一般に裁判官の心証を反映していると考えられるため、裁判所からの和解案だと貸金業者側も応じることが多いです(また、裁判所の和解案が受け入れられやすい理由として、裁判官がそれまでの期日にある程度双方の意向を聞いてから提示しているということもあります)。
なお、判決が確定すれば、大半の貸金業者は過払い金の返還に応じてきます。ただ、経営状況等の理由で判決後でも充分な支払いを得られないケースもなくはないです。
訴訟をして過払い金を回収する場合は一般的に交渉のみで和解に至る場合と比べてかかる期間は長くなる傾向はありますが、ただ、上記の通り提訴後に和解できることも多いので、必ずしも時間が大幅にかかるというわけではないです。(ただ、一連計算か分断計算かで大きく金額が変わるというような大きな争点がある場合には長引く傾向はあると思います)
4,完済後の過払い金返還請求にデメリットはあるか?
完済後の過払い金返還請求では、いわゆるブラック(信用情報機関に不利益な登録がされること)になることはありません。なぜなら、すでに返済を終えていて、払いすぎた利息を返してもらうだけであり、延滞が発生するわけではないからです。
一方、過払い金返還請求をした貸金業者についてはカードが解約されてしまう場合があります。それゆえ、その場合は同じ会社のカードを作りたい場合には再度申し込んで審査を受ける必要があります。カードを継続使用したい場合にはデメリットといえばそういえるでしょう。
5,完済後の過払い金についてのご相談
完済後の過払い金について気になる方は、ぜひ、一度ご相談ください。当事務所は、過払い金の相談は、相談だけなら無料です。もちろん、完済前の場合も、ぜひご相談いただければ、と思います。
当事務所では、2009年の創設以来、多くの過払い金返還請求案件を扱ってきました。交渉、訴訟とも多くの経験があり、様々な論点がある案件も扱ってきました。過払い金については、ぜひ、当事務所にご相談ください。