時効援用がうまくいく場合・行かない場合
ここでは時効援用がうまくいく場合といかない場合について、解説させて頂きます。なお、カード会社や消費者金融などからの借り入れやショッピング利用に伴う債権(債権回収会社に譲渡されている場合を含む)を念頭においた解説になります。
1.時効援用とは?
1.時効制度とは?
債権には消滅時効というものが存在します。弁済期が到来後に、一定の期間、請求や弁済など時効の中断(改正法では「更新」)に当たる行為が行われないと支払い義務がなくなるという制度です。例えば、時効が10年の場合、2010年1月1日に支払い期限が到来した債権について請求や債務の承認などの中断(更新)が行われず10年が経過して2020年1月1日を過ぎると、もはや支払い義務がなくなる、という仕組みです。なお、ここで、10年というのは改正前の民法における一般的な期間であり、改正前の商事債務だと5年となります。
いずれにせよ、このように、一定の期間が過ぎると弁済の義務がなくなる仕組みがあり、これを消滅時効と言います。
2.時効の援用とは?
上記のように、請求や債務承認などが行われずに一定の期間が過ぎると支払いの義務はなくなるのですが、それが確定するためには「援用」という行為が必要です。すなわち、「時効であることを主張する」という意思を明確に相手に伝える必要があるのです。なぜなら、時効期間が経過しても、援用をしない限り確定しないことが民法で定められているからです。
この、時効の援用は、通常、内容証明郵便を用いて行います。口頭や普通郵便でも法律上は有効ですが、それでは証拠が残らないため、あとで争われる恐れがあるからです。その点、内容証明郵便であれば、文字通り郵便の内容が証拠として保管されるため、万が一後から争われても、時効援用を行なったことを立証することができます。
2.時効の期間は?
令和3年現在、時効が問題となる債権は時期的にみてまだ民法改正前のものと考えられます。そこで、ここでは改正前の民法と商法に基づいて解説させて頂きます。
改正前民法では一般的な時効の期間は10年と定められていました。そのため、例えば、過払い金返還請求の時効は10年となります。
では、消費者金融やカード会社から借りていた場合の時効は何年でしょうか? これは、5年です。なぜなら、改正前の商法が適用されるからです。消費者金融やカード会社からの借り入れや立て替え払い(ショッピング)利用は商行為とされるため、商事時効が適用され、5年で時効となります。銀行からの借り入れも同様です。
なお、信用組合など商法上の商人ではないところからの借り入れの場合は、基本的に、10年で時効となります。ただし、その場合でも、借りている側が商人の場合(例えば個人事業をしている場合)には、商事時効が適用されて5年で時効となります。
また、通常は5年で時効になる性質の債権でも、裁判で確定すると、時効期間は10年に延びます。すなわち、裁判をされると、判決確定の日から10年が経過するまでは時効にならないということです。
3.時効の中断とは?
時効は、訴訟の提起や債務の承認などがあれば、進行が止まります。これを時効の中断と言います(改正法では「更新」という用語を使います)。弁済も債務の承認に該当します。
時効の中断が起きると、単に時効の進行が止まるだけではなく、これまでの期間は考慮されず最初に戻ってしまいます。すなわち、中断事由が生じた時点から再度時効完成に必要な期間が経たないと時効にならなくなってしまいます。
4.時効期間経過後に一部を支払ってしまったら?
時効完成に必要な期間を経過していても、支払いをしてしまうと、信義則上、もはや時効を援用できなくなる、とするのが最高裁の判例です。すなわち、時効完成後に一部を支払うと、債権者は、もはや時効を援用しないと期待するので、その信頼を保護する必要があるということです。支払いの約束をした場合も同様に考えられています。
5.時効援用を弁護士に依頼した場合の流れ
時効援用を弁護士に依頼した場合、どのような流れになるのでしょうか?
時効援用がうまくいく場合
1.資料がある場合
債権者から来た郵便などの資料があると、債権を特定することができて、かつ、時効が完成している可能性が高いと判断できる場合があります。例えば、業者から来た通知に、「支払い期限〇〇年〇月〇日」というように期限が書いてあり、その日からすでに5年以上が経っている場合は、時効完成に必要な期間が経過している可能性が高いです。そのような場合には、受任通知による調査を行うことなく、内容証明郵便で時効援用通知を送ります。
その後、1か月程度経過したら、弁護士から電話で、時効で問題ないかを確認します。すると、債権者は、中断事由はない、時効で処理した、などと回答してくれます。なお、電話確認しなくても、時効を認める趣旨の文書を送ってくる債権者もあります。その際に契約書を返還してくれる場合もあります。
上記の確認後、ご依頼者様にその旨報告して、業務は終了となります。
2.資料がない場合
どの業者から借りていたかは覚えているが資料がないという場合は、まず債権を特定する必要があります。すなわち、債権を特定し、かつ、最終弁済期限がわかるなど十分な資料がない場合には、弁護士は、当該債権者に受任通知を送り、取引履歴を取り寄せます。債権者は、通常、3週間~3か月程度で取引履歴を送ってくるので、取引履歴が到着したら、弁護士は、取引履歴を見て時効完成に必要な期間が経過していることを確認したうえで、内容証明郵便で時効援用通知を送ります。
その後の流れは上記①と同じです。時効であることの確認が取れたら、業務は終了となります。
3.裁判所から訴状が来ている場合
訴状が来ている場合で、訴状の記載から時効完成の可能性が高い場合は、弁護士は答弁書を作成し、時効援用する旨を書いて裁判所と原告に送ります。この場合は、時効が完成していれば、たいてい、原告は取り下げてきます。そうすると、裁判は終わり、また、時効援用の意思表示が答弁書で行われているため、時効は確定する、ということになります。
4.裁判所から支払督促が来ている場合
支払督促に対しては、時効が完成していると考えられる場合、異議申し立てを行います。ここで、異議申し立て書に時効を援用する旨を書いて送れば、多くの場合、支払督促は取り下げられます。取り下げられなかった場合は、訴訟に移行するので、改めて答弁書で時効を援用します。
以上は時効中断(更新)事由がなく、時効が完成していた場合です。
時効援用がうまくいかない場合
1.時効中断事由があった場合
最終弁済から5年以上経過している場合に、上記の流れで時効援用通知を送っても、業者から、「債務名義がある」という回答が来る場合があります。あるいは、取引履歴を請求した段階で債務名義(確定した判決や仮執行宣言付き支払督促)の存在を示されることもあります。そうすると、判決や支払督促の確定日から10年は時効は完成しないことになります。もちろん、すでに10年経っていれば時効援用で終わるのですが、その時点で10年経っていない場合は、時効は完成していないものとして対処しないといけません。
具体的には、任意整理をして分割で弁済する、自己破産をして免責を得る、民事再生により債務を減額する、などの方法があります。分割弁済が可能なのであれば任意整理をすればよいのですが、債務名義がある場合、債権者も経過利息(ここに至るまでの利息)をカットしてくれないことも多く、期間が経っている場合、返済額が多くなりがちです。ただ、一括支払いだと減額に応じてくれることもあり、また、全額を一括できなくてもある程度頭金を用意すれば経過利息を大幅に減らしてくれる場合もあります。この辺の対応は、債権者によっても異なります。
いずれにせよ、時効ではなかったとなると、基本的に、何らかの債務整理(任意整理、民事再生、自己破産、など)により対応するということになります。
なお、訴訟であれ支払督促(簡易裁判所を用いる制度)であれ、裁判所から書面が来ているはずであり、通常は気が付くはずなのですが、裁判所から書類が来た記憶がないとおっしゃっている方でも調べてみると過去10年以内に判決が出ていたり支払督促が確定していたりして、時効ではないというケースはあります。単純に家族が受け取ったりして本人が気が付かなかった場合の他、引っ越し後に住民票をすぐに移さなかったところ公示送達で判決が出てしまったというようなケースもあると思います。
ここで注意が必要なのは、時効期間経過後の訴訟でも確定すれば、もはや時効の主張はできないということです。一方、時効期間経過後に支払督促がされている場合は、支払督促には既判力がないので、争う余地はあります。
2.時効期間経過後に返済や支払約束をしてしまっていた場合
時効期間が経過して本来であれば時効援用をすれば認められる状態になっていても、時効援用をする前に支払いの約束をしてしまうと信義則上もはや時効援用はできなくなってしまいます。債務の一部弁済も同様です。したがって、弁護士に依頼する前に債権者が電話や訪問で支払いを促してきても、時効が完成している可能性が高い場合は、支払ったり支払いを約束したりすると時効援用ができなくなるので、注意しましょう。
3.実は5年経っていなかった場合
最終弁済日からおそらく5年は経過していると思っていても、取引履歴を開示請求してみると、実は5年経っていなかった、というようなこともあります。そのような場合も、上記と同じく、原則として、任意整理、再生、破産、などの債務整理により解決することになります。
6.まとめ
以上のように、時効援用についても、様々な論点、問題点があります。対応を誤るとせっかくの時効を主張できなくなる恐れもあり、リスクがあります。
時効かも、と思ったらまずは弁護士にご相談ください。