再生か破産か迷ったら
任意整理での解決が難しい場合に、民事再生(小規模個人再生または給与所得者等再生)か自己破産か迷ったら、どうすればよいでしょうか?
再生と破産の違い
まず両手続きの違いについて、簡単に解説すると、自己破産は免責が下りれば債務が原則として全額免除されるのに対して民事再生は一部は支払わないといけません。例えば500万円の場合は100万円まで減額されるのが基本です。常に5分の1になるわけではありませんが、多くの場合その程度の減額がされるといえるでしょう(ただし、100万円未満には減らせません。また、「清算価値基準」といって保有する資産の額(もう少し正確に言うと、保有する資産を清算した場合の額)よりは減らせないという原則があります。また、給与所得者等再生の場合は返済額が異なってくることがあります)。それを3年ないし5年で返済していくことになります。税金や社会保険料、養育費などについては免除や減額の対象にならないのは、再生でも破産でも同じです。
一方、破産手続きは原則として資産を失うことになります(20万円未満の預貯金や身の回りの品など限られた範囲の自由財産を除く)が、再生は担保権がないものは残せますし、住宅についても一定の条件を満たせば住宅資金特別条項を用いることで残すことができます。
住宅を残せるかどうか
さて、再生か破産かを悩んだ場合に、まず、もっともわかりやすい判断方法は、
・住宅(持ち家)を残したい場合は再生
・住宅(持ち家)がなくなっても良い場合や住宅(持ち家)を持っていない場合は破産
という考え方です。
民事再生の最大のメリットは住宅を残せる可能性がある(ただし条件あり)ことですから、最初から住宅を残す必要がない場合は、債務全額の免除(免責)を期待して破産を選択するという考え方です。民事再生法がわざわざ住宅資金特別条項という制度を導入して住宅を残しながらの再生を認めていることを考えると、合理的な考え方の一つと言えます。もっとも、住宅を残したい場合、住宅ローン以外の抵当権が住宅に付いているとできないし(それ以外の不動産を共同担保にしている場合にはその担保不動産の後順位抵当権がないことも条件)、清算価値が高い場合は返済額が高くなってしまうため効果が薄れますが、それらの点をクリアできそうな場合には、再生は住宅を残したままの生活再建に効果的な手続きといえるでしょう。
資格制限の問題
ただ、手続き選択の考慮要素はそれだけではありません。
例えば、破産の場合は警備員になることができなかったり、宅建や保険の外交員など一部の国家資格が使えなくなったり、という制限があるのでそれらを回避するために再生を選択する場合もあります。ただ、職業や資格の制限は免責が確定すれば復権により消滅しますので、現にそれらの職業についていたり資格を使っているか、近いうちにその予定がある場合以外は基本的に考慮の必要はないと思います。(ただ、免責が下りないと上記の資格等の制限は開始決定から10年間続きます)
相続財産との関係
また、住宅に限らず、破産は資産を換価して債権者に分配する手続きなので、それを避けたいということで再生を選択するということは考えられます。例えば、相続財産に営業が出ることを防ぐために破産を避けて再生を選択するということがあります。相続財産については被相続人が死亡した時点で相続は開始するため、未分割の場合、被相続人が所有していた不動産等について共有者になります。例えば、法定相続分が3分の1の場合、不動産について持ち分3分の1で共有者になります。仮に1200万円の土地が遺産としてあれば、管財人は共有持分を例えば他の共有者などに分割しようとします。少なくともそれによって他の共有者(ほかの相続人)にわかってしまう恐れが高いし、最悪、管財人により共有持分が第三者に売却されてしまう恐れもあり(それを避けるためにはある程度の額を破産財団に組み入れるという方法が考えられますが、このケースに単純に全体の価値に法定相続分をかけた400万円を求められるのか、もっと低くてよいのか、は状況によるでしょう。共有持分だけだと価値はかなり低いので、ある程度減額される可能性が高いとは思いますが、断言はできません)、共同相続人に迷惑をかけてしまうことになりかねません。したがって、未分割の相続財産がある場合破産は慎重に考える必要があります。その点、再生であれば、資産の換価はされません。ただし、清算価値を下回ることはできないので、上記の例だと1200万円の3分の1で400万円を持っていることになりますので、400万円未満まで債務を減らすことはできなくなります。
実現可能性
一方、実現可能性という点からは、
・再生で減額が認められれば返済が可能だと思われる場合は再生
・再生で減額してもらっても返済が難しいと思われる場合は破産
という考え方もあります。もっとも、再生で返済が可能な場合でも自己破産は選択可能です。それゆえ、再生の条件としては再生計画案に基づく返済が可能であることが必要ですが、破産については支払不能の事実があれば、たとえ再生が可能な家計状況でも、選択は可能であると考えられます。
免責不許可事由
なお、ケースによっては、さらに考慮すべき要素があると考えられます。それは、免責不許可事由です。すなわち、浪費やギャンブルなどが原因で破産に至った場合、破産法上、免責が認められない可能性があります。その他、免責不許可事由が破産法に定められており、それらに該当する場合は、免責が認められない可能性があるので、そのリスク回避のために再生を選ぶということも考えられます。ただ、近年は免責不許可事由があってもその程度や性質、問題が解消されているか(例えば浪費をやめているか)、その後の生活態度、などによって裁量免責(破産法によると、免責不許可事由があっても裁判所の裁量によって免責ができることになっています)が行われることが多いです。それゆえ、免責不許可事由があるからと言って直ちに破産を回避すべきとは言えません。また、破産手続きで免責が不許可になったとしてもそれから再生を申し立てることもできるので、免責が微妙なケースでも最初から破産を回避すべきとは限りません。ただ、免責不許可事由に該当する行為の程度等によっては免責が下りる可能性が低い場合もあり、そのような場合には敢えて再生を申し立てるということも考えられます。もっとも、これは例外的な場合と考えられ、浪費やギャンブルによる借り入れの場合でも、まずそれらを解消(浪費等をやめる)したうえで、破産管財事件の申立てを行うのが一般的です(もちろん、住宅を残したいなどの理由で再生を選択することはありますが、免責の問題で敢えて破産を避けるケースは近年は稀です)。
共通の問題
官報に住所と氏名が掲載される、信用情報がいわゆるブラックになる、所有権留保付きの車が原則として引き上げられる、などは破産でも再生でも共有する不利益となります。
以上を踏まえて
以上のように、破産と再生については、いずれも裁判所を利用する手続きであるものの、要件と効果はかなり違いがあり、それらを充分理解したうえで手続きを選択することが望ましいといえます。基本的には、そのうえで、生活再建に効果的な方を選択すればよいと思います。もっとも、実際は住宅がなく職業等の制限にかからない場合も再生を選択する方もおられます。全額免除してもらうのは債権者に対して申し訳ないと感じるが任意整理で返済をすることも難しい、という場合に中間的な解決手段として民事再生が選択されることがあります。そういう意味で、手続きの選択には単なる損得だけではなくて債務者の方の考え方も反映されるといえます。ただ、これはどちらが良いというう意味ではなく、返済する力がある場合は、そのように選択の余地が出てくるというふうに考えていただければ、と思います。
再生か破産かで悩んでいる場合は、まずは弁護士に相談して、どの手続きが可能か、どちらがお勧めか、を詳しく聞くことをお勧めします。
もちろん、当事務所でも多くの案件を扱っていますので、ご相談を歓迎します。まずはご予約の上、事務所へのご来訪をお願いします。